・「アスキーアートの法と慣習」―アスキーアートの権利関係についてのエントリー(別館「犬が目覚めた日」)

     ・「連載物の保管庫」―上記の物をまとめたもの

のまネコの問題点(「私物化」編)


初めに

  
 多くの問題がそうである(たぶん)ように、のまネコ騒動においても、一つだけの問題点(争点、論点)があったわけではなかった。例えば、ウィキペディアの「のまネコ問題」の項目には、次のように書かれている。

9月1日、エイベックスの子会社であるエイベックスネットワークが、このPVのキャラクターを基に商用キャラクターを作成:グッズではこのキャラクターを「のまネコ」とし、「(c) のまネコ製作委員会」という著作権者表示を付けていた。このことから「長年インターネットの共有財産として愛されてきた『モナー』を改竄、私物化して金儲けをしようとしている」という非難の声が上がり(以下祭り)が2ちゃんねるやブログなどで始まった。
のまネコ問題 - Wikipedia


 ここには3つの問題点が端的に表されている。それは、「改竄」、「私物化」、そして「金儲け」である。人によっては、これ以外を問題点としてあげる人もいるだろう(自分がその一人である)。同時に、これらの問題点を、問題だと見ない人もいるだろう(自分がその一人でもある)。だが、ウィキペディアが誰もが記述、改変できるシステムであることを考えると、この三つが主要な問題点であると言っていいと思う。

 引用文にも書かれているように、これらの問題点はモナーが「共有財産」であることを切っ掛けとしていると思う。私の最終的な目的としては、この「共有財産」の性質を書き出すことにある。だが、力不足ながら、現時点ではその性質がどのようなものなのかは分からない。今回は、その最終目的を達するために、まず、「改竄」、「私物化」、「金儲け」の三つの問題点を考察して行きたい。今回は、「私物化」をテーマとした。



エイベックスは何を「私物化」したか


 まず、エイベックスがした「私物化」とは、具体的にはどのようなことだったのだろうか。それは、一つには「のまネコ」というイラストの著作権であり、もう一つは、「のまネコ(イラスト)」と「のまネコ(文字)」の商標権であった。後者は、騒動が起きてからかなりたって発覚した(2chで騒動になったのが、9月5日。商標出願が発覚したのが、9月22日。商標出願しているだろうという声はそれ以前にもあった)ものであり、初めは、前者の「私物化」に批判がそそがれていたことになる。一応述べておくと、「モナー」の私物化はしてないない。

 今回の騒動では「ギコ猫騒動」、「モナー商標出願騒動」とは違い、AAやその名称ではなく、そこからの派生物の権利を主張したことが特徴である。

 さらに言うと、初期にはわた氏のオリジナル発言(デマとのことだが、2chでのその話の流れを追いかけたところ、テレビで聞いたというレスにたどり着いた。おそらく典型的な噂の原理に当てはまる事例だと思う。別のエントリーで書くつもりである)が「私物化」と非難されたの大きな要因であったと考える。また、エイベックスが「モナー」という名称を9月8日の公式声明までまったく出さなかったことも、私物化であるという印象を与えた原因であると考える。

「のまネコ」のイラストの著作権に関して


 著作権が関わることなので、法的なことも書いておく。また、問題が生じる場合を想定するためと、話を簡単にするために、前提として①モナーには著作権が認められる、②エイベックスが行ったオリジナリティーの付け足しは、創作性が認められる、とする。

 著作権法第27、28条により、著作権者には二次的著作物(ある著作物に新たな創作性を加えて作り出された著作物。もとにされたものは、原著作物と言う)に関する権利が認められ、誰かが二次的著作物を作ることや、その二次的著作物を利用(複製など)をするさいに、その利用に関する権利を持つことが出来る。つまり、二次的著作物を勝手に作ることは出来ないし、その二次的著作物の利用の際には原著作物の権利者の了解も取る必要がある。

 ただし、二次的著作物の創作者もその二次的著作物に関しては権利を持つことが出来る。これは、原著作物の権利者に許可を取っているかどうかは関係なく、許可を取っていない場合も二次的著作物の著作権を持つことができるとされている。

なお、二次的著作物を創作する場合には、原著作物の著作者の許諾が必要である。第27条で翻訳権・翻案権等が規定されている。ただし、原著作物の権利者に無許諾で翻案等をした二次的著作物であっても、翻案権等の侵害の問題はあるが、その二次的著作物は保護の対象となる。

作花文雄「詳解 著作権法」ぎょうせい 1999年 p135


例:Aが執筆した小説をBが翻訳し、Cが出版する場合。

Bは翻訳するにあたり、Aから許諾を得ないといけない(著27条)。
Cは出版するにあたり、Aから許諾を得ないといけないし(著28条)、Bからも許諾をえないといけない(著21条)。
BがAの小説を無断で翻訳したとしても(Aの著作権を侵害しているとしても)、Bが翻訳によって著作権を取得することにかわりはなく、CはBから許諾を得る必要がある(通説)。

二次的著作物及びその権利関係-駒田泰土(上智大学法学部国際関係法学科助教授)氏の駒田亭文庫から


 ミガッテブログの「なぜ殺害予告犯は「一部の人」でモナーは「みんなのモナー」なのか? その2」には、「元の著作物の権利が消えないうちは、二次創作物での権利を主張する事はできない。」と書かれているが、この考えは一般的ではないと私は思う。

 確かに、この考えと同様の意見もある。

結論において賛成であるが(引用者注:東京地判昭和47年11月20日のマッド・アマノ氏のパロディーモンタージュ写真事件の判決文に対して)、さらにこの趣旨をもう一歩進めて、原著作物者の許諾を得ないで作成された二次的著作物は―いかにそこに独創性が認められようとも―著作物として保護しないという点まで徹底できないものであろうかとの疑問を持つ。なぜなら、著作権侵害の効果として差止請求の認められるようになった今日、原著作権者によるこの請求権の行使によって二次的著作物の利用は全くなしえなくなるのであるから、これを著作物として保護するとしても実効性はないと考えるからである。

半田正夫「著作権法概説(第11版)」法学書院 2003年 p282


 だが、半田氏が「できないものであろうかと疑問を持つ」のは、原著作物の権利者の許諾を得ないで作られた二次的著作物の著作権を認められるのが一般的であるからだと考えられ、通説にのっとるのなら、許可を取っていない場合も二次的著作物の著作権を持つことができると考えるべきである。

「私物化」という理由の考察


 では、本題である「私物化」という理由の考察に入ってみる。繰り返しになるが、エイベックスが行った私物化は、「のまネコ」というイラストの著作権と、「のまネコ(イラスト)」と「のまネコ(文字)」の商標権であった。問題の切っ掛けは「著作権」であったことから、ここではのまネコの著作権の方を重点的に考える。

 なお、「私物化」という点を上げているブログとして、先にあげたミガッテブログの「なぜ殺害予告犯は「一部の人」でモナーは「みんなのモナー」なのか? その2」を参考にした。

AA絵師はどうだったか


 AAキャラクターのイラスト(もしくは、既存のAAキャラクターの改変のイラスト)というのは、エイベックスが初めてやったわけではない。全体の数は不明だが、多くの絵師の方々がいる。彼らは自身の絵について、どのような態度を取っている(いた)のか。そこらへんを少し調べて見た。

 調べ方としては、-モナー板お絵かき掲示板 の中から、自身のサイトにリンクを貼っていた絵師を一人選び、その絵師のサイトに載っていたリンクを辿るというやり方をした。具体的には、「郷音(tonton氏)」(最初の方)、「しも(籠氏)」」、「umlaut(猫氏)」のリンク集に載っていた絵師の方々のサイトに、著作権に関する規約が載っているかどうかを調べた(リンク切れ、休止のためイラストが無いなどは除いた)。- モナー板お絵かき掲示板 -から個別に絵師のサイトに飛び調べたもの、私が個別に見つけたものある。合計、125サイトを調べた。

 何日かに分けて行っており、現時点とは異なっている可能性もある。 
 
 また、この場合の「絵師」とは、観賞用のイラストを描く人のことを指しており、アイコン、ボタンなどのいわゆる「素材」を描いている方は除外している。イラストと「素材」の両方を作っている場合は、イラストに関する方の規約を見た。

 正直、抽出の仕方に難があるように思う。よりよい調べ方があれば意見を。

その結果

*tonton氏のサイトからのリンク巡回が不十分だったことが分かった。全サイト数と特に規約無し数が増える可能性あり。
 125サイト中、「無断転載禁止」や「二次利用禁止」などの規約があったのが、87サイト(そのうち、2サイトは2回目の調査のさいは無し)、そのような規約が無かったのが37サイト、その他が1サイトだった。著作権を放棄している(正確に言えば、財産権を放棄している)を明記していたり、制限をかけていないサイトは0だった。

 ブログに表にして書くのは大変だったので、pdfにしたものをアップしておきます。 http://www.mediafire.com/?2mmyltnghmd

 ちなみに、その他としたのは次のような規約である。

オリジナルや好きなゲームとか漫画とかの絵を描いて自己満足で晒しています。あとはもう商用目的以外だったらこのサイトにあったものと表記いただければ自由ですんで。
エレクトリックファイア:あひる氏


 この結果から、私は、AA絵師の間ではAAキャラクターのイラスト(もしくは、既存のAAキャラクターの改変のイラスト)に対して、何かしらの権利(一番多いのが無断転載禁止(複製権:第21条))を主張することが一般に行われていると考える。

「avex/zenがやっている事というのは、つまり『二次創作の二次創作』である。そんなもので自分たちの権利を主張しようなどという事がおこがましいのだ。」
ミガッテブログ"なぜ殺害予告犯は「一部の人」でモナーは「みんなのモナー」なのか? その2"


とあるが、『二次創作の二次創作』に「自分たちの権利を主張」することは、AA絵師の間では一般的であり、エイベックスが特別変わった主張をしたわけではないと考える。

 さらに、次の事例を出す。AAキャラクターの絵版で有名な- モナー板お絵かき掲示板 -では、2004~2006年にかけて、絵師の方々による大会が開かれいていたらしい。その大会のまとめサイトでは、2004年の予行を除いて、無断転載、転用を禁止する文書が書かれている。

尚、こちらに収録させていただいたすべての絵の権利は絵師さん本人にあります。無断転載、転用などはおやめください。
紅白絵板合戦2004:まとめ

こちらに収録させていただいたすべての絵の権利は絵師さん本人にあります。無断転載、転用などはおやめください。
紅白絵板合戦2005

※尚、こちらに収録させていただいたすべての絵の権利は絵師さん本人にあります。※
※無断転載、転用などはおやめください。※
夏の陣蒼白合戦2005まとめ

※尚、こちらに収録させていただいたすべての絵の権利は絵師さん本人にあります。※
※無断転載、転用などはおやめください。※
夏の陣蒼白合戦まとめサイト


 このような多くの絵師が集まる大会においても、無断転載、転用の規約があるということは、絵師がその描いた『二次創作の二次創作』に権利を持つということが一般的であることの証拠となると考える。

考察2


 二次的著作物の権利を否定するのは、所謂コピーレフトの思想である。だが、今回調べた限りにおいては、一般の絵師もエイベックスと同じようにその二次的著作物の権利を主張していた。

  では、何故エイベックスの場合にこれが問題点として取り上げられたのか。幾つかの仮説を考えて見る。第一に、絵師が二次的著作物の権利を持つことに反対の人もけっこういる可能性。これが一番筋が通ってると思える。第二に、絵師が権利を持つのはOKだが、企業が持つのはいけない可能性。これを取る場合、新たに「なぜ企業ならOKなのか」、「この場合の『企業』とは、具体的には何を指すのか?法律上の企業か、イメージとしての企業か」という問題が出てくる。現時点では、これらが思いついた。 

終わりに


 最後に、絵師がAA自体についてどのように思っているのかの例をあげる。正直なところ、事例が少なくハッキリしたことは分からない。とりあえず、現段階で見つけた一つの事例を取り上げる。

 2ch全AAイラスト化計画は、絵師のまそ(おにぎりまそ)氏が運営するサイトである。このサイトは、624のはてなブックマークを持っており、まそ氏は2chプラスで漫画を掲載していた人物である。 f0081233_07988.jpg まそ氏は、現在は無くなっている以前の掲示板で、次のようなやり取りをしている(画像は、自分が保存していたサイトを、画像化したものである。これが正しいと証明することは不可能だが、とりあえず信じてほしい。ダブルクリックで拡大)。

ハスゲ 「前略-それと、これからここのAAをちょくちょく引用させていただいたりもするのでヨロシクお願いいたします^^;」
まそ 「前略-AAは共有財産なので引用しても大丈夫です。」


 まそ氏のサイトには、「画像コンテンツを無断で転載、掲載、及び商用利用することを禁じます。」書かれている。これから見るに、私はまそ氏がAAのみを共有財産であると認識していると思う。これが絵師の間で一般的かどうかはまだ証明していないが、おそらく他の絵師も同じ認識であると考えている。

追記

  • エイベックスの9月8日の発表まで、「モナーの私有化」と見られていた可能性はどうか。

1月8日-『2ch全AAイラスト化計画』へのリンクが不適切だったので、変更。
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  by syakai21 | 2007-01-06 12:07 | のまネコ

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